THOR ReDirect pack
話題が前後してしまいますが、今回は"THOR ReDirect pack"を紹介しようと思います。
MysteryRanch THOR ReDirect packは、SierraNevadaCorpが開発したIEDジャマー「THOR III」を携行するための専用バックパックです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Thor_III
THOR IIIは無線起爆式IED(即席爆発装置)をジャミングにより無効化することを狙った装備のひとつで、アメリカ陸軍、海兵隊およびアフガニスタン国民陸軍などで運用されているようです。
映画「ハートロッカー」でも携帯電話をくくり付けて無線起爆式にしたIEDが登場しており、爆弾処理班である主人公たちが周囲で携帯電話を使っている不審者がいないか神経を尖らせている描写が印象的でした。THOR IIIはそうした無線電波をジャミングすることで起爆を失敗させる効果があるとのこと。
従来MysteryRanchのカタログには載っていませんでしたが、2015年のミリタリーラインのカタログではこのTHORを確認することができます。
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外観
こちらが THOR です。
ぱっと見、ASAPのように見えますが底部に何やら収納がついています。
もともとTHOR IIIは上の画像のようにキャリアが用意されてるようなのですが、ハイドレーションやその他の装備を一緒に携行できるよう開発されたものと思われます。
メインコンパートメントのサイズはASAPとほぼ同じ40cmx30cmサイズですが、PALSウェビングが2本少なくなっており、底のサブコンパートメントまで含めると60cm程の長さがあります。
重量は約2,750gで、ASAPより1,500gほど重くなっています。18Lサイズの割には3DayAssaltBVSと同じくらいの重さでまさに軍用バックパックという感じです。
最大の特徴はハーネスとメインコンパートメントの間にあるスペースです。
サブコンパートメントはメインコンパートメントとは接しておらず、ハーネスにL字にくっついています。サブコンパートメントには斜めにテープが掛かっており、重みで下に垂れるようなことはありません。
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ハーネス
Futuraヨークも通常とは違う特別仕様です。
写真では分かりにくいですが、長いEggRoll(取り外し不可)のあたりはプラスチックで補強してあり、表面が固くなっています。また、金属製のリングが付けられています。右肩側についている十字のものはリモコンか何かを収納するためのもので、取り外すことができます。
THORはボディアーマーの上から背負うことを前提としているのかチェスト・ストラップがついておらず、その代わりにMysteryCinchが付属してきます。
MysteryCinchはPALSにしか装着することができないので、別途ChestieMILなどのストラップを用意する必要があります。
↑よく考えたら、チェストストラップを解放せずにMQRBを作動させると首に引っかかり非常に危険です。チェストストラップを利用する場合はヨーク自体を交換する必要があります。
ハーネスには左右ともITW Waterbury Buckle製のごっつい金属製クイックリリースバックル(MQRB : Metal Quick Release Buckle)が装備されており、ボタン留めされたストラップを下に向かって引っ張るとスパッとパックを切り離すことができます。
Futuraヨークに入っているフレームシートはプレス加工されたタイプ。
Futuraヨークは2013年10月製。
ウェストベルトはクッションサポートの部分が長く、ベルトはSATLに採用されているような前に向かって締め上げるタイプです。
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付属品
THORにはMysteryCinchと弓形の金属フレームパーツ2つ、パンフレット3冊が付属してきます。金属フレームについては後述します。
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メインコンパートメント
メインコンパートメント上部のポケット。ASAPなどと同じく底面がメッシュになっています。
メインコンパートメント内はがらんどうで、PALSやSpadelockはなくバックパネルにハイドレーション用と思われる大きめのポケットが一つついているだけです。
ジッパーポケット内は白いプラスチック板が入っており、物を入れるというよりはこのプラスチック板を交換するためのアクセスなのでは?という感じです。
恐らくこのようにハイドレーションを吊るして使用するものと思われます。
製品タグはメインコンパートメント内にあり、2013年11月製のようです。
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サブコンパートメント
メインコンパートメントの底部には独立したサブコンパートメントが二つ設けられています。
上部は不意の飛び出しを防ぐためなのか、ジッパーとバックルを組み合わせた収納になっています。
パンフレットによれば、このスペースにはTHOR IIIに電源を供給するバッテリチャージャがセットされ、軍用の2290/5590バッテリー2個が収納されるとのこと。
コンパートメント左奥隅はネオプレン生地になっており、電源ケーブルを通す為の穴があいています。
下方のサブコンパートメントにはゴムベルトがついており、おそらく予備バッテリーの収納と思われます。
両コンパートメントともウレタンパッドで囲まれており、ASAPにDittyBatを追加したような形であることがわかります。
ちなみに底面にも2x5のPALSが設けられています。
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バックパネル/メインコンパートメント間スペース
さて、THORの最大の特徴であるTHOR IIIの搭載スペースについて説明します。
メインコンパートメントを固定する6カ所のバックルを外すと、コンパートメントを下方に展開することができます。
コンパートメントは完全に分離する訳ではなく、長さ約12cmのベロによってつながっています。この部分は調整が効かず、底部の厚みが12cmを超える物の積載は想定されていません(THOR III専用なので当然ですが...)。
バックパネルは非常に細身で、ベロから上は長さ37cm幅19cmほどで小さめの固定用ストラップ2本と4x4のPALSウェビングが装備されています。
固定用ストラップは内径最大44cmと短く、ベロに合わせた厚さ12cmなら理論上、幅約20cmのものしか固定できません。もうちょっと長くしてくれてもいいのに、、、。
ちなみに内側には滑り止めが縫い付けられています。
バックパネル上端にはケーブル類をまとめるためのテープがついています。
バックパネル全体にはプラスチックと思われる板が入っており、更に両端にはNICEフレームなどにも採用されているグラスファイバー製の棒がバックパネル下端まで差し込まれています。
バックパネル側面。非常に薄いですが、Futuraヨークのフレームシート、バックパネル全体に渡る板にグラスファイバー棒が詰め込まれていて非常に剛性が高いです。重量の半分以上がバックパネルによると思われます。
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実際に搭載してみた
先ほど紹介した付属品の弓形アルミニウムステー。
パンフレットによると、このアルミステーはTHOR IIIに取り付けてスペーサーにするためのもののようです。
作戦行動中、常に電波を発射し続けるTHOR IIIは本体が大変高温になるであろうことは無線をカジッたことのある人間なら想像に難くありません。それはTHOR III本体を覆うヒートシンクからも想像できます。
そこで、THOR IIIの上からパックを被せた際に廃熱を阻害しないよう、アルミステーの突っ張り棒でスペースを確保しようと考えたのでしょう。
残念ながら(?)手元にTHOR IIIがありませんので、色々探した結果丁度良さそうな箱を発見しました。ちなみにワインボトル二本が入った箱でした。
固定したところ。
ぴったりですね!
メインコンパートメントを被せるとこのようになります。
このようにパックとの間にしっかり空間が確保されます。
ちなみにメインコンパートメントのバックパネルはくの字に曲がりますので、積載量はやや少なくなります。
メインコンパートメントはけっこうせり出します。
アルミステーを使用しない場合はこのようになります。
試しにNICE DaypackLid(Sサイズ)を挟んでみました。
ちょっと詰め込み過ぎ?かなりきついです。
なんとか挟み込むことができました。
無理にバックパネルに固定しなくても、メインコンパートメントのコンプレッションベルトだけで十分固定できます。
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まとめ
MysteryRanch THOR ReDirect Packはさすがに特定の装備専用なだけあって、汎用性は微妙かもしれません。また、THOR IIIを挟んでいることが前提の設計のため、何も挟まない状態だとメインコンパートメントがうまく固定されずガサガサと揺れてしまいます。
しかし、ASAPのサイズでオーバーロードシステムのような構造を有していることは興味深く、工夫次第で面白い使い方ができるかも知れません。
ちなみにTHOR Packは”e湾”で度々出品されています。
今後のシリア情勢によってはまた手に入りづらくなるかもしれませんね。